溶接の仕事とは
素人ながら「溶接の仕事ってどんな仕事?」と聞かれると、お面をかぶり火花を散らし金属を溶かしてくっつけるという答えが返ってくると思います。
でも溶接の仕事は想像以上に幅が広く、大きく分けると “アーク溶接” と “ガス溶接” があります。
また、それぞれの工場によって出来る溶接と出来ない溶接があり、技術の差もハッキリしているんです。
この仕事を実際経験してみて、「先に知っておけばよかった!」ということが結構あります。
特にどんなリスクがあるのかを十分理解した上で溶接工の求人に応募した方が絶対にいいです。
私の場合は少し特殊な例ですが、出向という形で小さい町工場にアーク溶接の仕事を少しだけ経験させて頂きました。
今回はアーク溶接を中心に、職場の先輩にヒアリングしたことも含めてお伝えします。
アーク溶接とガス溶接の違い
職場によってアーク溶接だけなのか、ガス溶接だけなのか、はたまた両方する場合もあります。
元自動車整備士の友人は両方やっていたと言っていました。
■アーク溶接とは、電気を使って金属の母材と溶加材(溶接ワイヤや溶接棒)の間に放電現象を発生させ、その熱で金属の接合を行なう溶接。
アーク溶接の具体的なやり方については、下記動画が参考になります。
■ガス溶接とは、ガスバーナーを使って可燃性ガス(アセチレン、水素、LPG)と酸素による燃焼熱によって金属の接合を行なう溶接。
ガス溶接の具体的なやり方については、下記動画が参考になります。
簡単に言えばガスか電気を使うかの違いなんですが、溶接する際の技術とリスクにも違いがあります。
溶接のリスク
アーク溶接のリスク
アーク溶接の場合は、溶接の際にアーク光(青白い光)が出ますが、この光は強い紫外線を出してもいるので絶対に直で見てはいけません。目がチカチカして目を焼いてしまいます。そうなると涙が止まらず、その日は寝ることができません。
そのようにして目を焼くことを繰り返していくうちに、段々視野が狭くなってしまいます。
ですから直に光を見ないだけでなく、紫外線カットのゴーグルや手持ちシールドが必要になってくるんです。
加えて、目以外の保護も必須です。
かなり強い紫外線が出ますので、日焼け対策も万全を期すほうがいいです。
日焼け止めを塗る、首まで保護できる溶接帽をかぶる、溶接用エプロンを着けるなど。
私はロボット溶接をする際に、一日だけ全く日焼け対策をせず紫外線防止ゴーグルと長袖のTシャツのみで作業を行なってしまい、その日家に帰って鏡を見ると、まるでスキーに行ってきたかのような日焼け!
その後数日に渡って、顔・耳・首と皮がボロボロむけてしまいました。
皮がむけるだけならまだいいんですが、細胞のDNAを破壊する強い紫外線を長期にわたって浴び続けてしまうわけですから、紫外線対策は必須なんです。
でも現場では目を焼くことには多少気を使っても、それほど紫外線対策している人は少なかったりします。
また、アーク溶接で発生する煙は、溶接ヒュームという塵肺の原因になるものですので、必ず国家検定「DS2規格」のマスクを着用すべきです。
上の写真は一日(8時間)ロボット溶接をして汚れたマスクです。
でも実は2時間程度やっただけでもマスクは結構汚れてるんですよ。
マスクを着用しないで作業を続けると10年ぐらいで塵肺の症状が出ると言われています。
そのような危険があるにもかかわらず、こちらも現場では息苦しいなどの理由から着用していない方もおられますので注意してください。
あとは、火傷が日常茶飯事です。
溶接すると溶接した個所だけでなくその周辺も高温になっていますが、見た目には分かりません。
革の手袋をはめて作業はしますが、肌が出ている所や薄いシャツに触れてしまうと結構ひどい火傷をすることもあります。
もう一つリスクを挙げるなら、腰痛や手の腱鞘炎になる可能性もあります。
一日中同じような姿勢で溶接していると腰を傷めやすいですし、トーチを握りっぱなしだと手が腱鞘炎になりやすいです。実際に腰痛がひどくてこの仕事を辞めた人もいるそうです。
【5つのリスクまとめ】
- 目を焼く
- 日焼け
- 塵肺
- 火傷
- 腰痛と手の腱鞘炎
ガス溶接のリスク
ガス溶接の場合は、アーク光が発生せず溶接部分が見やすいですが、本来はこちらも保護具が必要です。
なぜならガス溶接の赤外線によって目(網膜)を焼いてしまうからです。
とはいえアルミの溶接などは難易度が高く、溶ける温度が低いために直に色を確認しながら溶接しないと母材に穴を開けたりして失敗してしまいますので、現場では遮光マスクを着けてなんてやってられないという方もおられます。
あとはアーク溶接と同じで、溶接後の火傷や腰痛・手の腱鞘炎に注意が必要です。
アーク溶接工場の仕事内容
私が行っていた工場は鉄の溶接で、下記のような仕事がありました。
- ボール盤による穴あけ
- 材料の塗装
- スポット溶接
- ロボット溶接
- 半自動溶接
- 手溶接
1.ボール盤による穴あけ
これは溶接する前処理として、パイプ素材や鉄板に穴を開ける必要がある場合に行ないます。
一回の仕事量が100本~数百個と行なう場合が多いので、半日~一日仕事になります。
ちなみにボール盤による穴あけの際に気を付けなければいけないのが、回転するドリルの刃へ手が巻き込まれること。
巻き込み防止のため、原則手袋着用禁止です。もし手袋をして巻き込まれた場合は労災がおりません!
2.材料の塗装
塗装作業は滅多にありませんが、組み立ての仕事ついでに錆止め用のペンキ塗りをする場合がありました。
筆を使って金属に錆止め塗装するのはなかなか難しく、木材に塗装するようにすぐには乾きません。完全に乾く前に裏面を塗らなければならず、あまりやりたくない作業でした。
3.スポット溶接
ロボット溶接する前段階として小さくて薄い鉄板にL字型のレールなどを取り付けます。
L字型のレールをスポット溶接で取り付ける場合、専用の冶具に母材の鉄板をはめ込み、所定の位置にズレないようにL字型のレールをセットして溶接します。
スポット溶接のやり方は、ポンチのような棒が刺さっている所に溶接したい所を持って行って、足でスイッチを踏むとポンチのような棒が下りてきて1秒ほどで丸型に溶接されます。
機械を使ってポンチで叩いているような感じです。 ジ~という音と共に若干火花が飛びますが、それが手に当たるとチクッと熱いです。
しかも素手で鉄板を持ってスポット溶接する場合は、溶接する瞬間だけ手を離さないと母材の鉄板が熱くなって火傷するかもしれません。
私はそれがイヤだったので軍手で作業していました。
ロボット溶接
私がメインでやっていたのが、このロボット溶接。(パナソニック製)
ロボット溶接にはどんなメリットがどのくらいあるのでしょうか?
ロボット溶接は準備さえしてもらえば、基本的に誰でもできる溶接できるから。
冶具を作って、プログラミングさえしてしまえば、あとはモノをセットして油を少しスプレーしてスイッチポン!
人の手でやるより2倍のスピードで溶接ができちゃいます。
しかし欠点もあって、可動範囲に限界があるので、大きい部材の溶接が出来ません。
ロボット溶接はそのように割と簡単にできるのですが、ただ単にセットしてスイッチを入れるだけの繰り返しではありません。
溶接を終えた母材(鉄板)は次の溶接をしている間に “スパッタ” を取ります。
スパッタとは、溶接した時にまわりにくっついてしまう粒々のゴミのこと。
スパッタは鉄ベラなどを使って取り除きますが、溶接前に油を吹き掛けておくことでスパッタのこびりつきがかなり軽減されます。
あとははみ出た溶接部分をサンダーで削ります。
一日に重い鉄板(15kg以上あったかな?)100枚を裏表ロボット溶接し、それを数日すると腕と肩の筋肉がかなり鍛えられます。(無理すると関節を傷めかねませんが)
ロボット溶接の需要に関してはどうなのか?
海外でも簡単に、安い人件費で出来るゆえに、日本国内のロボット溶接の需要はムチャクチャ多いとは言えないようです。
納期の問題やある程度精度を気にする商品の仕事が日本では回ってくる感じでしょうか?
プログラミングは各ロボットメーカーによって全く違うようで、工場の社長も「他のロボットはよう操作せん」と言ってました。
プログラミングと聞くとキーボードで何か難しいことをやるイメージですが、リモコンのコントローラーを使ってアナログ的に溶接の順番を覚えさせます。
メーカーの方からやり方を教われば出来そうですよね。
最初のうちは、途中で止まった時の対処法などを教わりました。
溶接ワイヤの出ている長さを微調整したり溶接を少し戻したり・・・
途中で止まってしまう原因は、トーチ(ロボットのノズル)にゴミが溜まり過ぎたり、溶接ワイヤが母材と接触してしまうと起こります。そうなる前に作業を止めて掃除したりする必要があります。
あとロボット溶接で必要なことは、溶接ワイヤが無くなった時の交換方法。
これ一巻で20kgもあります。回転する軸部分に音鳴り防止のため油をスプレーしてから新しい溶接ワイヤをセットします。
ワイヤはほどけないように気をつけながら手でロボット本体までケーブルの中に通していきます。
炭酸ガスが切れかけたらボンベの交換も必要です。(ボンベを転がすのって結構重くて疲れます)
古い機種だとガスが減っても警告音が鳴らないので、常に小さいガスメーターに目を凝らしていないとガス切れで溶接不良となります。
この溶接なら二日はガスもつかな?とか考えて作業しないとガス切れでブローホールができてしまいます。
【ブローホールとは、溶接部分に気泡が蜂の巣状に入り込み、スカスカでもろい溶接になること】
あと特に夏場は工場内がかなり暑くなるので、おそらく扇風機を使うと思いますが、アーク溶接は風にも弱いので風向きにも気を付けなければなりませんし、スパッタ防止のため油を吹き掛けますが、やり過ぎても同じようにブローが出ます。
このように溶接不良になってしまった場合は、サンダーで削って取り外し、手溶接しなければならなくなります。
ガス溶接の資格に関して
溶接の種類によって求められる資格や要求も変わってきますが、実は必ずしも溶接の免許がないと溶接できないわけではありません。
よく勘違いされているのが必要なのは免許ではなく、労働安全衛生法第59条に基づいて「アーク溶接等特別教育を修了」していること。
「アーク溶接等特別教育とは」
【学科】
アーク溶接等に関する知識(3時間)
アーク溶接装置に関する基礎知識(3時間)
アーク溶接等の作業の方法に関する知識(3時間)
関係法令(2時間)
【実技】
アーク溶接装置の取扱い及びアーク溶接等の作業の方法(10時間)
18才以上の方で合計21時間、約三日間の受講をすることによりアーク溶接作業者の資格を得ることができます。
大工をしている私の義理の弟も溶接をするのにこの「アーク溶接等特別教育」を受けたと言っていましたが、溶接の基礎知識が身について為になったと言っていました。
そしてです。
詳しくは日本溶接協会(JWES)の溶接技能者資格についてや溶接技能者資格の取得と維持をご覧ください。[免許はなんと1年毎に更新する必要あり]
溶接の免許の意味するところは、“この会社には溶接免許所得者が何割いるのか?” という仕事を注文してくれる会社が要求する基準だったりもします。
例えばA社は溶接資格者3割いる会社にこの仕事を振る、B社は溶接資格者5割いる会社に仕事を振るといった感じです。
ですから、工場で働く場合は必ずしも有免許所得者である必要がないのです。
社長の話によると、若くて早い人で1年経験を積んで免許が取れるかなぁ?ということでした。普通は2・3年かかる?
求人情報と給料
溶接工の給料
溶接工の仕事はいわゆる3Kです。
きつい・汚い・危険。 そのため体を使った仕事の中では比較的給料は良いほうです。
月給は最低25万円、残業代込みで35万円~40万円といったところでしょうか?
残業に関しては会社によって差があるようです。
私が出向していた工場では、毎日1時間か2時間の残業がありました。
ボーナスは会社によります。
私が出向していた小さい会社はリーマンショクまでは寸志程度(10万円ぐらい)のボーナスが出ていたそうですが、現在はまだリーマンショックの影響が残っているせいか?ボーナスは無いそうです。
その他の福利厚生もよくありません。
大きい会社の従業員として溶接をしている場合は別ですが、中小企業の中には社会保険や有給休暇を与えていない会社もそれなりにあります。
今まで「それが普通、仕方がない」そう思っていた人が、同業者の中でキッチリ福利厚生に取り組んでいる会社があることを知ってしまうと、その差に驚き「こんな会社選ぶんじゃなかった」となってしまうことでしょう。
休日や残業について
休日や残業は会社によってかなり差がありそうです。
私が働いた会社は「土曜日は隔週で休み」ということに一応なっていましたが、実際には仕事量が多過ぎて納期を間に合わせるためにほぼ土曜日は出勤、祝日も基本仕事になりました。つまり休みは日曜日だけということがほとんどです。
途切れることなく仕事を取ってきていた会社だったので、仕方ないのですが(仕事が減ってしまう時期があるよりはマシ)、休みが少ないし毎日残業となると辞めようかな?と考えていた方もいました。
流れ作業的に仕事が回ってくる会社であれば、そこまで忙しくはないようです。
休日や残業に関しては事前に確認しておきたい項目ですね。
将来性について
基本的に溶接の仕事は無くなることがありません。
今回はアーク溶接の町工場の話をメインで記事にしましたが、特に外の現場で活躍している、経験と技術が求められる手溶接は今後も重宝されること間違いなしです。
その道のエキスパートになれば、それなりに良い給料も貰えることでしょう。
というわけで将来性は◎です!
まとめ
やはり溶接の仕事を選ぶ上で銘記しておくべきは “紫外線や赤外線による健康障害の可能性” です。
ある程度保護具をきちんと着用することで予防はできますが、特に強度の近視の方や緑内障といった病気を持った目が弱い人は選ぶべきではないと個人的に思います。
私はそう感じたのでこの仕事から手を引きました。
また扱う製品が鉄のような金属ということは、かなり重い物を運ぶ必要があるということです。
基本的にはフォークリフトでまとめて材料を運びますが、一個一個の材料は手で持ち上げる必要があり、ある程度腕力も必要になってきます。
そして冶具にキチンとセットして簡単なものでも最低ミリ単位の正確さが必要です。(もちろん仕事の内容によってはもっともっと細かい正確さが求められます)
そう、溶接の仕事は力強さと正確さが求められるんです。
溶接工は図面を読むのに強度計算が必要だったり、冶具を作るセンスが必要だったり求められるものもそれなりにありますが、それほど高等教育を受けていなくても進める道であり、なによりも手溶接は人手不足で求められている仕事だという点が魅力です。
確かに現場溶接以外の溶接は安い所多いかな。
最低Nー2P、tー1p、TーNPのJWES資格は欲しいですね。その3つあれば一応残業無しでもソコソコは貰えるだろうし。
強度の近視の人はやめた方が良いと書いてありましたが、具体的にはどのくらいなんでしょうか?両目とも0.2は強度の近視者にはいるのでしょうか?
「強度の近視」というのは、厳密にはいわゆる視力検査の数値ではなく、眼鏡やコンタクトレンズのカーブ(強度近視:-6.25以上、-10.00以下の度数)で判断されますが、私の個人的な意見ですと0.1あたりから強度の近視になるかもしれません。(同じ視力であっても度数は個人によって違います)
私自身、視力が0.02ぐらいで度がキツい方です。カーブの数値が-9.5もあります。(ちなみに-10を越す場合はどのメーカもオーダーメイドじゃないとレンズ自体販売されていません)
0.1を切ったあたりから、裸眼での見え方は全体的にボ~っとしか見えなくなってしまいますので、見え方にはそれほど違いがなくなります。半分あきらめの境地です。
ですが、これに溶接による影響を受けてしまいますと、さらに視力低下が進んでしまうリスクと、一番重要なこととして40歳以上の20人に1人が自覚症状がないまま実は緑内障になっている点です。
私は元々眼圧が高かったので、20代の時からすでに緑内障の治療中だったというオチがあって、選ぶべきではありませんでした。
このあたりはご自身で不安が少しでもあるようでしたら、オススメできないとしか言えません。